スポーツファーマシストの奥谷元哉です。
ドーピング問題もひどいですが、原因が分からないんでしょうね。
日本スケート連盟会長の橋本聖子氏からでた可能性の見解もこれまたひどい
スピードスケート・ショートトラック男子の斎藤慧選手(神奈川大)が平昌(ピョンチャン)五輪のドーピング検査で陽性反応を示した問題で、日本スケート連盟の橋本聖子会長は1日、「コンタクトレンズの保存液が体内に入った可能性がある」との見解を示した。自民党のスポーツ立国調査会で報告した。
http://www.huffingtonpost.jp/2018/03/01/doping-contactlends-solution_a_23374892/
恐らく、医療関係者は震撼し、ありえない内容の誤解が流布されてしまいましたね。
アセタゾラミドとは
アセタゾラミドは薬理作用での分類が炭酸脱水酵素阻害薬で、眼圧を下げる効果があるため、緑内障の治療薬に用いられます。利尿作用や、高山病の症状を緩和する効果もあります。
禁止表国際基準での扱いはS5の利尿薬、隠蔽薬に当たり常時禁止物質です。しかしながら、禁止表国際基準には下記の記載があるため眼科用のアセタゾラミドはドーピング違反とはなりません。
但し以下のものは除く:
ドロスピレノン;パマブロム; および眼科用に使用される炭酸脱水酵素阻害薬
[ドルゾラミド、ブリンゾラミド 等]
アセタゾラミドがコンタクトレンズの保存液に入っているのか?
入っていません。
このニュースを見て、医療関係者やコンタクトレンズ販売関係者はびっくりしたのではないでしょうか。眼圧を下げる作用のある成分がコンタクトレンズの保存液においそれと入っているわけはありません。
日本コンタクトレンズ協会から公式見解がでていますので誤解を流布しないようにしてください。
3月2日付の一部報道にて、平昌(ピョンチャン)五輪の日本人スケート選手にまつわるドーピング検査で陽性反応を示した問題で、「米国製の使い捨てコンタクトレンズの保存液が鼻の中に入ったことによって(陽性反応が)出る可能性がある」と言及されております。今後、関係機関にて調査が行われることと思われますが、今回検出されたと伝えられているドーピング禁止薬物“アセタゾラミド”について、当協会加盟の製造販売業者および卸売販売業者 43 社に確認したところ、当協会加盟会社の製造・販売するすべてのコンタクトレンズの保存液には配合されていないことが判明いたしました。なお、コンタクトレンズに使用される消毒液、洗浄保存液についても同様に調査した結果、いずれも同成分は配合されていませんでした。
http://www.jcla.gr.jp/file/press%20release%20doping_20180305.pdf
橋本聖子氏の言う米国製というのが引っかかるところですが、例えばボシュロムやアルコンなどの日本でも広く流通している米国メーカーの保存液にアセタゾラミドが入っていることはありません。
誰も知らない超マニアックな米国製があるのかもしれませんが、それは「何故、わざわざそんな誰も知らないメーカーを選んだのか?」という新たな疑問を生み出すため可能性としてはありえません。
当事者は科学的に検証しなくてはいけない
ゴリ押ししてコンタクトレンズ保存液に悪者になってもらえば選手も日本スケート連名も最小の被害ですむという事情は理解できますが、このような無茶な見解を通すのであれば少なくとも同じものを使用し、尿中に出ることを検証してから声明をだすべきではないでしょうか。
何故わざわざアセタゾラミドなのか?
この事件に関する私の最大の疑問です。
若い人がアセタゾラミドを治療で使う可能性は低く(使うとしたら普通はチームドクターと協議してTUEを出す)、特に競技能力も上がるわけではない、利尿薬や隠蔽薬として用いるとしても効果が弱いだけでなく、アセタゾラミドの経口摂取の場合は半減期が10-12時間もあるため体内に長時間残ります。ドーピング目的で使うとしても長時間体内に残る物質をわざわざ使うのは考えにくいです。
このように一つも利点が無いのです。せいぜい高地トレーニングをするための予防薬用途くらいですが、オリンピックに出る可能性のある選手であればチームドクターがついていますのでそんな迂闊なことはさせないはずです。
〆
さらに、選手本人に覚えが無いため原因不明の状況が続いています。謎が多すぎて全然しまりませんね。