スポーツファーマシストの奥谷元哉です。
喘息の発作は辛いですよね。
私も小児喘息だったのであの息ができなくなるとてつもない恐怖感は知っています。
現在は携帯性に優れた発作止めがあるため便利ではある反面、調べずに使っていますとアンチ・ドーピングのルールに抵触する場合があります。
INDEX
ベータ2作動薬で使用可能なのは3種類のみである
大前提ですが、ベータ2作動薬は筋肉増強作用、交感神経興奮作用があるため禁止されています。
従いまして、使用できる物質と方法が極端に制限されています。
サルブタモール
サルメテロール
ホルモテロール
これらたった3種類の吸入薬のみが使用可能です。
吸入薬以外は禁止ですので注意して下さい。
使用可能な3種類の中で発作止めは2種類のみである
サルブタモール
ホルモテロール
サルブタモールは昔から使われている発作止めのベータ2作動薬です。
ホルモテロールは近年承認された薬で、即効性と長時間作用性の2つの効果を持つ優れたベータ2作動薬です。
最初に紹介した中でサルメテロールが発作止めとして使えない理由は即効性が無いためです。
サルブタモール

代表的なのはベネトリン吸入液です。
ベネトリン吸入液はそのままでは使えません。
ネブライザーという霧状にしてくれる機械にセットして吸入します。
このネブライザーも近年では小型化し、携帯出来るようになっています。
下記の商品は象のアクセサリーを脱着することにより、大人でも子供でも使用が可能です。
本ブログの読者は大人が中心ですのでネブライザーは手間だと思います。
エアゾールタイプの吸入薬は下記があります。

サルタノールインヘラー100μg

アイロミールエアゾール100μg
WADAの使用可能制限量に対する考察
さて、サルブタモールは吸入薬であれば使用可能ですが、筋肉増強作用、交感神経興奮作用はあります。
そのため、1日あたりの使用量がWADAの定める禁止表国際基準で制限されています。
WADAが制限を設けている理由はやはり使える筋肉増強剤があると、
[st-kaiwa1]Oh, baby♪ I’m asthma. inhalation inhalation inhalation inhalation…[/st-kaiwa1]と、ルールの角をつついて違反するやつがいるからです。
WADAの制限量
24 時間で最大1600μg、12 時間ごとに800μg を超えないこと
尿中のサルブタモールが1000ng/mLを超えないこと
添付文書(サルタノールインヘラー)の使用方法
1 回噴霧中 120μg(サルブタモールとして100μg)
サルブタモールとして、通常成人 1 回200μg( 2 吸入)、小 児 1 回100μg( 1 吸入)を吸入する。なお、年令、症状によ り適宜増減する。
成人 1 回 2 吸入、小児 1 回 1 吸入の用法・用量を守り(本 剤は、通常 3 時間以上効果が持続するので、その間は次 の吸入を行わないこと)、
1 日 4 回(原則として、成人 8 吸入、小児 4 吸入)までとすること。
まとめますと、サルブタモールは添付文書の使い方だと1日最大で800μgまでです。
添付文書通りの使い方だとWADAの制限量は超えません。
医師の指示、添付文書通りの使い方をしていただくと全く問題ありません。
ホルモテロール

シムビコートタービュヘイラー
シムビコートはホルモテロールというベータ2作動薬とブテソニドというステロイドの2成分が入っている吸入薬です。
ステロイド(糖質コルチコイド)が入っていますが、吸入薬ですので問題ありません。
ホルモテロールは長時間作用型のベータ2作動薬でありながら、即効性もあるためシムビコートは発作止めとしても使用が可能です。
ホルモテロールの吸入薬はオーキシスもありますが喘息の適応が無いため、喘息の発作止めとして使えるホルモテロールはシムビコートのみです。
SMART療法
シムビコートは1日2回吸入しますが、この定期吸入に加えて、発作が出た時に吸入する使い方をSMART療法と言います。
1回1吸入の方(1日合計2吸入)と、1回2吸入(1日4吸入)の方が発作止めとして使える対象になりますが、必ず医師の指示を得て下さい。
発作止めとして使える回数は合計8吸入までです。特に医師の指示がある場合は合計最大12吸入まで増量が可能です。
定期吸入回数 | 朝 | 夜 | 発作止めとして可能な吸入数 | 特に医師の指示がある最大吸入回数 |
1日2吸入 | 1吸入 | 1吸入 | 左記にプラス6吸入まで(1日合計8吸入) | 左記にさらにプラス4吸入まで(1日総合計12吸入まで) |
1日4吸入 | 2吸入 | 2吸入 | 左記にプラス4吸入まで(1日合計8吸入) | 左記にさらにプラス4吸入まで(1日総合計12吸入まで) |
1日6吸入 | 3吸入 | 3吸入 | 不可 | 不可 |
1日8吸入 | 4吸入 | 4吸入 | 不可 | 不可 |
WADAの使用可能制限量に対する考察
上記のサルブタモールと同様です。ホルモテロールにも1日当たりの使用量の制限があります。
WADAの制限量
吸入ホルモテロール(24 時間で最大投与量54μg)を超えないこと
添付文書の最大使用量は
一時的に1日合計12吸入(ブデソニドとして1920μg、ホルモテロールフマル酸塩水和物として54μg)まで増量可能である。
ホルモテロールも添付文書上の最大使用量範囲内(SMART療法の最大範囲内)の使い方の場合、ドーピング違反となることはありません。
サルメテロール

セレベント50ディスカスはサルメテロールの吸入薬です。


アドエアはサルメテロールとフルチカゾンプロピオン酸エステルというステロイドの二成分を含みます。
どちらも喘息の治療には有効ですが、即効性が無いため発作止めとしては使用されません。
発作止めとして使用はしませんが、定期の吸入薬としてアドエアは優れています。
余談ですが、アドエアはその昔、スピードスケート金メダリストの清水宏保選手が広告塔でメーカーのパンフレットに載っていて非常にインパクトがありました。薬剤としてもインパクトがあったのでこういう宣伝は良いなと思います。
アンチ・ドーピングのルールで使っていただいて問題が無いのですが、制限量があります。
WADAの使用可能制限量に対する考察
吸入サルメテロール(24 時間で最大200μg)
添付文書の使用量
下記、セレベントの添付文書からの抜粋です。
成人にはサルメテロールとして 1 回50μgを 1 日 2 回朝および就寝前に吸入投与する。
小児にはサルメテロールとして 1 回25μgを 1 日 2 回朝および就寝前に吸入投与する。なお、症状に応じて 1 回50μg 1 日 2 回まで増量できる。
アドエアもサルメテロールとしての1日量はセレベントと同じです。
添付文書通りの使用回数であれば、セレベント、アドエア共にドーピング違反となることはありません。
ここまでは使用可能なベータ2作動薬です。
メプチン(プロカテロール)は常時禁止

このエアゾールタイプに限らず、メプチンと名の付く製剤は全て常時禁止です。
もちろん、一般名のプロカテロールと表記されている製剤も全て常時禁止です。
何故、わざわざメプチンを取り上げたのかですが、日本では喘息の発作止めと言えばメプチンというほど超メジャーな薬でスポーツを始める前からずっと使っているという方もお多いからです。
TUEは・・・
代替薬(サルブタモール、シムビコート)があるため原則に当てはめればTUEは通りません。
し・か・し・な・が・ら
大塚製薬はJADAのスポンサー企業です。通る可能性があるかどうかはうんぬんかんぬん◯◯◯…

どう判断するかはアナタ次第です(笑)
ただ、TUE申請自体が手間で(医師に何故その薬が必要か根拠を書いてもらわないといけない)、承認まで時間がかかるため私は喘息でアンチ・ドーピングの競技に参加するのであれば早い段階でサルブタモール系かシムビコートに処方変更して慣らしておく方が良いと思います。
ホクナリンテープ(ツロブテロールテープ)も常時禁止なんですわ

ホクナリンテープ(ツロブテロールテープ)も日本では本当によく出ます。
このテープを貼っておくだけで咳が出なくなる優れものの医薬品で喘息だけでなく、風邪症状を感じて来た患者さんにもよく出ています。
お子さんのいる家庭ならほんまに効くんかいな?と貼ってしまった方もいるかもしれません。
実は2014年の違反事例でツロブテロールテープは3例も上がっています。
ほんのちょっとした出来心、ダメですよ。
〆
喘息の競技者は本当の喘息の方も自称喘息の方も含めて大変多いと聞いています。
今回の情報は本当の喘息の方向けの記事です。
気管支を広げて呼吸を楽にしてくれる薬は喘息患者にとってなくてはならないものです。
しかしながら、ベータ2作動薬は筋肉増強作用があるため使える薬と量が限られています。
発作止めはサルブタモール系とシムビコート
定期の吸入薬としてはシムビコートとサルメテロール系
となります。シムビコートはどちらも使えるため本当に優れた吸入薬です。
医師の指示の下、添付文書の使用量を守っていればドーピング違反となることはありません。
喘息と付き合いながら、競技を頑張ってください!